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大阪高等裁判所 昭和54年(行コ)15号 判決

第一四号事件控訴人、第一五号事件被控訴人(被告) 大阪市庭井土地区画整理組合

第一五号事件被控訴人(被告) 大阪市長

第一四号事件被控訴人、第一五号事件控訴人(原告) 松谷千鶴子

主文

昭和五四年(行コ)第一四号事件について

一  原判決中第一審被告大阪市庭井土地区画整理組合の敗訴部分を取消す。

二  右取消部分にかかる第一審原告の第一審被告大阪市庭井土地区画整理組合に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

昭和五四年(行コ)第一五号事件について

一  第一審原告の第一審被告大阪市長に対する第一次請求にかかる訴えを却下する。

二  第一審原告の本件各控訴を棄却する。

三  控訴費用は第一審原告の負担とする。

事実

第一申立

一  被告大阪市庭井土地区画整理組合(以下単に組合という。)

昭和五四年(行コ)第一四号事件につき

主文同旨。

昭和五四年(行コ)第一五号事件につき

主文第二、三項と同旨。

二  原告

昭和五四年(行コ)第一四号事件につき

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は被告組合の負担とする。

昭和五四年(行コ)第一五号事件につき

1  原判決中原告敗訴部分を取消す。

(被告組合に対する請求)

2  被告組合の設立は無効であることを確認する。

(被告大阪市長に対する請求)

3  第一次的請求(当審における新たな請求)

被告大阪市長が昭和四九年一二月二六日付でなした被告組合の設立認可処分は不存在であることを確認する。

第二次的請求

右認可処分は無効であることを確認する。

第三次的請求

右認可処分を取消す。

4  訴訟費用は第一、二審とも被告らの負担とする。

三  被告大阪市長(以下単に市長という。)

昭和五四年(行コ)第一五号事件につき

主文第二、三項と同旨

第二主張

当事者双方の事実上の主張は、次に付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決二枚目裏二行目「昭和四四年」を「昭和四九年」と訂正する。

2  同五枚目裏末行から同七枚目表一行目にかけてと同八枚目表一一行目に「換地予定地」とあるをそれぞれ「換地予定地的」と訂正する。

二  当審における被告組合の主張

(第一四号事件について)

1 本件仮換地指定処分は、土地区画整理法九八条一項前段の前半にいう「土地の区画形質の変更に係る工事のため必要がある」のでされた仮換地指定処分である(以下前段の場合ないし前段の仮換地指定という。)。すなわち、本件仮換地指定処分は、その従前地である七五番の土地の三辺について道路がないところを仮換地指定図のとおり同土地及びその隣接土地を減歩して巾員五メートルの街路を造成し、この街路下に上下水道を敷設する工事を施行するため、右街路部分の土地の使用収益権能を他に移すためになされたものである。

このように本件仮換地指定処分は土地の区画変更工事のため必要があつてなされたものであるが、同時に本件仮換地の場所はほぼ終局的な換地と定められる場所となつているから、換地予定地的性質をも兼ね備えたものである。しかしながら、右はあくまでも工事のために必要なものとしてなされる仮換地指定であるから、工事概成時において面積の異動が生じる。従つて終局的な換地の面積とは一致しない。その意味では右の仮換地は厳密には換地予定地的仮換地とはいえない。この点からも右仮換地は一時利用地的仮換地といえるのである。そして、法九八条二項によると、前段の仮換地指定処分をする場合においても、法に定める換地計画の決定の基準を考慮してなされなければならないと定められているのであるから、仮換地をそのまま終局的な換地に移行するよう運用することが望ましいのである。従つて、前段の場合においても仮換地指定に際して権利者に換地設計の基準について説明し、総会等で同意を得たり仮換地指定案についても同様の措置をとることが合理的であるといわれている。

2 本事業では仮換地設計に際しては予め大阪市都市整備協会に委託して換地設計方針案を作成してもらい、これを被告組合の理事会、総会にかけて説明し、昭和五〇年の総会でその承認を得ている。そこで右方針に基づいた仮換地指定案の作成を同協会に委託し、同案も被告組合の総会にかけ、その際、再度換地設計方針の面積式評価方式についての説明を行ない、それに基づいて計算した仮換地案全図を総会々場前面に貼り、各権利者には仮換地案明細書を交付し、質議、意見の提出の機会を与えているし、誤り等があれば修正を行なうことも告げている。そして、右仮換地指定図は組合事務所及び同協会に保管され、権利者の縦覧に供されていて、原告も数回閲覧している(現に、原告はこれに基づいて本件訴訟を提起しているのである。)。このようにしたうえで、工事概成後清算金を算出して換地計画を策定し、これを権利者の縦覧に供し、意見提出の機会を与えるのであるから権利保護の機会に欠けることはない。

3 仮に、換地予定地的仮換地指定は換地計画に基づかなければできないという原告のような考え方に立つとしても、次の理由によつてその瑕疵が治癒されて適法なものとなつている。

すなわち、本事業の換地計画は昭和五六年三月二八日の被告組合の通常総会にかけられ、異議なく可決された。そして、同年四月一五日被告組合事務所、住吉区役所、庭井児童公園の三か所で公告され、同日から同月二八日まで被告組合事務所で縦覧に供された。原告は四月一八日、二〇日、二一日、二二日、二四日の五日間にわたつてこれを縦覧した。その後、地区内の公園敷地について、昭和五六年九月三〇日被告組合から大阪市へ寄付行為がなされ、これに基づき所有権移転登記がなされ、その地目も池敷から公園に変更された。これに伴ない、前記の換地計画を変更し、あらためて昭和五六年一二月八日の組合総会にかけて換地計画を可決し、同年一二月九日これを被告組合事務所で公告し、同月一〇日から二三日まで同事務所で縦覧に供した。被告組合は右換地計画について昭和五七年一月一一日付をもつて被告大阪市長に認可申請をなし、同月二一日付をもつて土地区画整理法八六条一項の規定により認可を受けた。このように換地計画が適法に作成され、その認可がなされた以上、原告のような考え方に立つても瑕疵が治癒されたものである。

(第一五号事件について)

当審における原告の主張は争う。

三  当審における原告の主張

(第一四号事件について)

1 当審における被告組合の主張は争う。

前段の仮換地指定は終局的な換地とされることを予定しない一時利用地的な仮換地の指定に関するものであつて、しかも工事のために仮換地指定処分が必要な場合に限られるべきものである。

およそ換地計画に基づかないで仮換地指定処分を行なうのは例外コースであるから、一時的工事のためにのみなすべきものであつて、永久的工事のためになすべきではない。しかるに、被告組合は、法が第三節「仮換地の指定」の前に第二節「換地計画」を置いて、関係権利者の権利保護を図つている法意を無視して、本件仮換地指定処分に基づいて違法にも永久的工事を施行してしまつたものである。そして、本件工事も実質的に終了して久しいが、本件事業によつてなされたものは新設道路の造成だけである。そのうちの約半分は建売業者阪下ハウスの所有地内にあり、残りの新設道路は盲地と袋地のためのものであり、わずか数本の道路を更地に造成するだけである。この程度の極めて小規模の区画整理をするのに原則コースである換地計画を定めることができないはずがない。しかるに、このように急いで工事をしたのは建売業者や袋地所有者のためであろうが、このような理由が法九八条一項前段の前半にいう「工事のため必要がある場合」に該当するものではない。

2 被告組合のいう換地計画及びその認可によつては瑕疵は治癒されない。換地計画が、仮換地指定処分の後で作成されてもよいものであれば、換地計画が先行して作成されていないことを理由として本件仮換地指定処分を無効とする必要はないからである。仮に先行行為の瑕疵が後行行為によつて治癒される場合があるとしても、本件換地計画は無効である。なぜなら、本件組合設立は無効であり、その設立認可も不存在もしくは無効であつて、本件組合は成立していないから、仮換地指定処分も無効であるから、本件換地計画も無効である。

3 換地計画なしに換地予定地的仮換地指定処分を行なうことは憲法二九条一項に違反する。

本件仮換地指定処分により永久的工事をされることは所有権の永久的剥奪につながる。しかるに本件においては被告組合自らが青写真にすぎないとか成熟しきつた確定性がないとかという事業計画しか先行していないし、被告組合は工事中に設計変更を行なうという。所有権を剥奪するのにかような不確定な一部私人の恣意に基づいて行なわれることを許すことは憲法二九条一項に明白に違反する。

4 仮換地の不特定について

本件においては原告は被告らから本件事業の準備または施行のため本件土地に立入る旨の通知を受けたことはない。本件土地には事業の名称及び施行者の名称を表示した標示杭は一本もない。ゆえに本件においては本件土地の測量は全くなされず、仮換地の位置も何等表示されていない。

(第一五号事件について)

1 被告組合設立無効確認の訴えについて、これを許す明文がないことを理由に原告の訴えを却下することは、憲法三二条及び裁判所法三条に違背すると共に、現行憲法下における行政救済法の趣旨を没却するものである。

2 被告組合設立認可無効確認の訴えを第二次請求とし、当審において被告組合設立認可不存在確認の訴えを第一次請求とする。

被告大阪市長が被告組合に対してなしたという設立認可は不存在である。すなわち被告組合は右認可の日付について先ず昭和五〇年一二月二六日もしくは同五一年一二月二六日と主張し、被告市長もこれを援用したが、被告市長は原審においてこれを同四九年一二月二六日と訂正し、次いで被告組合も同様に訂正したが、原判決は事実摘示において同四四年一二月二六日と記載し、被告市長は当審において原判決事実摘示を援用した。かくてはいつ認可が行なわれたか全く不明であり、不明ということは認可はなかつたということを意味する。

よつて、原告は当審において、第一次的に被告市長が被告組合に対してなしたという設立認可が不存在であることの確認を求める。

3 被告組合設立認可無効確認の訴えについて、設立認可処分の段階においては、土地区画整理に関して未だ特定個人に向けられた具体的処分がなされたものということはできないから、争訟の成熟性ないし具体的事件性を欠くとして原告の訴えを却下することは、憲法三二条及び裁判所法三条に違背すると共に、現行憲法下での行政救済法の趣旨を没却するものである。

原告は認可処分の段階でその認可処分を争つているのではなく、更に進んで仮換地指定処分の段階でその先決問題として認可処分を争つているのである。

4 被告組合の設立認可には処分性がある。

およそ土地区画整理組合の設立が認可されると行政罰で担保された建築行為等の制限がなされる。この制限は、地区内の関係者全員に対して一律に課される義務であつて特定の個人に対するものではないが、いわゆる一般処分であつても、それが個人の権利利益を違法に侵害するものであれば行政訴訟の対象となりうるものである。けだし、組合の設立が認可されると、事業計画はそのまま実施され、以後の手続は機械的に進められる公算が大であるから、最初の段階における組合設立の認可が違法であるにもかかわらず、被害者をしてその後の仮換地指定または換地処分のあるまで拱手黙視せしめることは不当に出訴を制限することになるし、以後の行為は無駄な手続を積み重ねる結果となり、手続完成の段階における仮換地指定、換地処分に対する訴訟においてはじめて組合設立の認可が違法として無効とされ取消されるとすれば、却つて混乱を増大する結果となるから、組合設立認可についてはその処分がなされた段階で既に訴の利益を認めるべきである。

5 また、原告は仮換地指定処分無効確認請求において原審で勝訴したが、被告組合の設立やその設立認可処分の無効を確認しておかないと、形式的な被告市長の認可がある限り被告組合は生きているから、何度でも違法な仮換地指定処分をして来る可能性がある。原告は早期に被告組合の成立自体の無効を確認してもらわないと、前記違法な処分の無効確認の訴訟を繰返す負担から解放されない。このように訴えの利益があるのに本件訴えを却下することは違法である。

6 原審における請求原因事実の補充、訂正。

(一) 本件事業施行地区を別紙図面のとおり訂正する。

(二) 施行地区から除かれている個所について左上地区の「一一七番地の一部」を「一〇五番地の一部」と訂正する。

7 被告組合の設立無効原因及び被告組合設立認可処分の無効原因の追加。

(一) 被告組合は公共組合であるから、当該区域内の資格者全員が当然に組合員となるべきところ、組合員である木下伊之助を希望により除外し、非組合員の出口光次を希望により編入するなど一部の私人の恣意による加入、脱退を認めている。

(二) 本件事業には客観的必要性がなく、被告組合は公共の福祉の増進に資することを目的として設立されたものではない。もし区画整理事業が必要不可欠であれば、公共の福祉を使命とする大阪市や大阪府がその事業を行なうはずである。被告組合は原審で主張したように建売業者や袋地所有者の私利の増進のために設立されたものである。

(三) 被告組合はその設立及び事業執行の資金源として大阪市庭井土地改良区からその資産の譲渡を受けているが、同改良区の出資は違法であるから、被告組合は改良区に右出資を返還しなければならず、かくては被告組合は土地区画整理事業の施行のために必要な経済的基礎がないことに帰する。

8 被告市長の被告組合設立認可処分の瑕疵

右認可処分には、その前提手続に次の瑕疵がある。

(一) 被告市長は、被告組合の設立認可申請に既に主張した違法があるにもかかわらず、法二〇条一項但書の規定に違反して何らの審査をしないで事業計画を縦覧に供した。

(二) 被告市長は、右事業計画に対し原告がなした本件事業施行区域から本件土地の除外を求める意見書を違法に棄却した。

四  当審における被告市長の主張(第一五号事件)

1  原告の当審における主張はすべて争う。

2  被告市長がなした被告組合の設立認可年月日が昭和四九年一二月二六日であることは明白な事実である。

3  原告は当審において第一次的請求として設立認可処分不存在確認の訴えを追加的に併合して提起したが、被告市長は行訴法三八条一項、一九条一項後段、一六条二項による異議を申し述べる。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  原告が被告組合の施行する本件土地区画整理事業にかかる施行区内の宅地について所有権を有する者で被告組合員とされていることは当事者間に争いがない。

二  被告市長が昭和四九年一二月二六日付で被告組合の設立を認可したことは原審証人笠井幸雄の証言により成立の認められる丙第七号証によつて明らかである。

三  被告市長のなした被告組合設立認可不存在確認の訴えについて

原告は、当審において、被告市長の被告組合設立認可の日時が不明であるとして、設立認可不存在確認の訴えを第一次請求として追加的に併合し、従前の設立認可無効確認の訴えを第二次請求とした。

抗告訴訟が高等裁判所に係属しているときに、原告が関連請求を追加的に併合して提起するには被告の同意を得なければならない(行政事件訴訟法三八条一項、一九条一項但書、一六条二項)ところ、被告市長の同意を得られなかつたことは、記録上明らかである。従つてこの点において原告の右認可不存在確認の訴えは不適法として却下すべきものである。

四  被告組合設立無効確認の訴え並びに被告市長のなした被告組合設立認可処分無効確認の訴えについて

本件土地区画整理事業のように一連の手続を経て行われる行政作用において、個人の権利ないし利益を侵害する性質を持たない中間段階の行為についてどの段階でこれに対する訴えの提起を認めるべきかは立法政策上の問題である。

原告は、本件事業計画が違法なものであると主張して被告組合の設立無効確認を求めているが、土地区画整理組合は、法一四条一項による認可によつて成立するものであるから、組合成立以前の手続である組合設立の段階においては、個人の権利ないし利益を侵害する性質のものはないから、これを許す旨の明文の規定のない以上、これを独立の訴えとして肯認することはできないものというべきである。

次に原告は被告市長のなした被告組合設立認可処分の無効確認を求めているが、これを許す明文の規定がないうえに法一四条一項による認可がなされた段階では、事業計画が決定されているにすぎず、事業計画は当該土地区画整理事業の基礎的事項を一般的、抽象的に決定するものであり、いわば当該土地区画整理事業の青写真にすぎないものである。そうすると、被告組合の設立認可処分がなされても、未だ原告の権利に対して直接具体的な変動を与えるものではないから、争訟の成熟性を欠くのみならず、実際上もこの段階で訴えの提起を認める必要性もないから右訴えは不適法である(最大判昭和四一年二月二三日民集二〇巻二号二七一頁参照。)。

またかく解しても、その違法を主張するものは、後続処分たる仮換地の指定等の処分がなされた段階において、これら具体的処分の取消又は無効確認を訴求することができ、これらの救済手段によつて具体的な権利侵害に対する救済の目的は十分に達成することができるのであるから、違憲の主張もあたらない。

五  本件仮換地指定処分無効確認の訴えについて

原告は本件仮換地指定処分の無効確認を求め、その理由として、(一) 被告組合は不成立であり、右処分は不成立の組合による処分である、(二) 換地計画なき換地予定地的仮換地指定処分である、(三) 右処分では仮換地が特定されていないの三点を主張するので、順次検討する。

1  原告は被告組合は不成立であると主張し、その理由として(一) 組合設立は無効である、(二) 組合設立認可処分は不存在若しくは無効であると主張する。

(一)  そこで、まず原告の主張する被告組合の設立無効の原因について考える。

(1) 被告組合の本件事業の施行地区となるべき区域の定め方の瑕疵について

被告組合の本件事業計画に定められている施行地区から、原告主張の土地が施行地区から除外されていることは当事者間に争いがない。

原告は右除外地が生じたのは、本件事業に反対する多くの者を除外して法一八条に定める三分の二以上の同意をうるために恣意的に施行地区を定めた結果であるから、施行地区の定め方に一貫性がなく、法三条二項にいう一定の区域の土地とはいえないと主張する。

成立に争いのない乙第二号証の一、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一号証、当審における被告組合代表者尋問の結果により原本の存在及び成立が認められる乙第二五号証の一、二、原審証人和田繁一の証言、原審及び当審における被告組合代表者尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、大阪市庭井土地改良区の昭和四七年四月二九日通常総合において、同組合員全員の賛成のもとに同改良区に属する農地を宅地として効果的に利用するため、この農地について土地区画整理事業を施行することが決議されたが、その背景としては、同改良区は地下鉄我孫子駅から約五〇〇メートル東南の交通至便の地を占めるため、周辺からの宅地化が進み、農地が蚕食され、改良区内には細路が数本あるのみであるにもかかわらず、文化住宅が軒を接して建てられはじめたので、スプロール開発の弊害を防止し、健全な市街地造成を図る必要が次第に地区の人々に認識されるようになり、改良区組合員の大部分が賛成して本件土地区画整理事業を施行することが決議されるに至つたものであること、被告組合設立には右のような事情があるため、本件事業の施行地区は、〈1〉被告組合設立発起当時の同改良区組合員の所有地であること、〈2〉当時既に宅地として開発され、市街地を形成している土地を原則として施行地区から除外すること、〈3〉苅田耕地整理組合により耕地整理が行なわれた地区は対象外とすること、〈4〉法施行規則八条に定める技術的基準に適合することを基準に定めたものであり、原告主張の土地は右基準に照らして除外されたものであることが認められ、右の本件施行地区の設定基準及びその適合性の判断は合理的なものとして肯認しうるところであり、右認定判断を覆すに足る証拠はない。

また、これに関連して原告が除外を希望しているのにこれを容れないでおきながら、木下伊之助は希望により除外し、山口光次は希望により編入している旨主張する。

前掲乙第二五号証の一、二、原審証人和田繁一の証言によつて成立の認められる乙第一一号証、木下伊之助所有地への通路を撮影した写真と認められる検乙第一号証、原審証人和田繁一及び弁論の全趣旨によれば、木下伊之助所有地は本施行地区より約四〇メートル離れた飛地となつているうえに、密集した人家の建つ市街地の一画にあり、それに至る道路は巾二・五メートル位で両側に古くからの家屋が建ち込んでいるので道路の拡幅が非常に困難なこと、山口光次は土地改良区組合員であり、その所有地四番二は農地で建物が建つていないこと、前面道路がないので区画整理事業によつて道路を造成する必要があつたこと、原告所有地(七五番)を施行地区に入れないと本施行地区内の道路は苅田、庭井両町を画する西側八メートル道路に直接に接続しなくなるため、連続的な公共施設の整備、宅地の造成等による地区全体の健全な市街地造成による土地の効率的利用に著しく支障をきたすことになり、右八メートル道路は施行規則八条一項一号の要請する適当な施設に該当するものであること、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、木下伊之助の除外、山口光次の編入については前判示認定説示の合理的基準に基づいて除外・編入が定められたことが明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

(2) 法一八条に定める三分の二以上の同意の瑕疵について

意見を採つた者の総数は三八名であり、その内三四名が同意したことは当事者間に争いがないところ、原告は右同意者うち一二名は発起人から本件事業により何ら負担を負うものではないと約束されて同意したのであるから真の同意者ではないと主張する。原告主張にそう原審における原告本人尋問の結果及びこれによつて成立の認められる甲第二号証、第一五ないし第三二号証は、原告が相手方に無断で録音したものの中から作為的に反訳したものの一部を集めたものであつて措信するに足らず、他に原告の主張を認めるに足る証拠はない。

(3) 本件事業計画内容の平等原則違反について

(ア) 原告は被告組合の本件事業により直接の利益を受けながら被告組合員とされない者と被告組合員との間に不平等がある旨主張するが、被告組合の施行区域の決定が合理的基準に基づいてなされていること前判示(1)に認定説示のとおりであるから、右主張は理由がない。

(イ) 原告は同じ被告組合員でありながら、原告に対してのみ数千万円に相当する土地を道路部分として提供させ、他方において多数の者には土地や金銭の負担をさせない旨主張するが、これを認めるに足る立証はない。

(ウ) 原告は、原告所有地(七五番)はもともと主道路に面しているから、本件事業によつて道路としてその一部を提供させられる負担のみ残り、何ら利益がない旨主張するが、本件事業により原告所有地を含む本地区一帯が秩序ある宅地となることにより原告が有形無形の利益を享受するほか、原告所有地が四面道路に接することによりこの土地の利用価値が増進することも明らかであるから、原告の右主張は失当である。

(エ) 原告は本件事業は他組合員の負担において建売業者に利益を与えるものである旨主張するが、これを認めるに足る証拠はなく、反つて原審における被告組合代表者尋問の結果、当審証人阪下佐一郎の証言及び弁論の全趣旨によれば、株式会社阪下ハウス興産は、地区内所有地の上水道、下水道施設工事費の二分の一を特別負担していることが認められるから、右主張は失当である。

(4) 原告は被告組合がその設立及び事業執行の資金として大阪市庭井土地改良区からその資産を受けたことが違法である旨主張する。原告の右主張は、同改良区の昭和四七年二月二〇日の臨時総会、同年四月二九日の通常総会において、土地区画整理法に基づく土地区画整理事業を施行する旨の決議をしたことは、同改良区の自殺行為であるから、右決議をして同改良区の解散決議とみなすべきことを前提とするものであるが、前掲乙第一号証、原審における被告組合代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右決議は同改良区の地区内の土地区画整理事業の施行についての議案を可決したものであつて、原告主張の如き同改良区の解散決議ではないことが明らかである。

右事実によれば原告の右主張は既にしてその前提を欠くことが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく失当である。

(5) 本件事業の客観的必要性について

原告は、本件事業には客観的必要性や公共性がないとして、大阪府や大阪市が本件事業を行なわないのはその証左であると主張する。

しかし、土地区画整理法は、公共団体施行のほかに組合施行を認めているから、公共団体施行でないからといつて当該事業の必要性や公共性がないということにはならない。

前判示認定説示のとおり本件事業は、都会地の農地を健全な市街地に造成するという公共性を有し、その必要性も存在したことが明らかであるから、原告の右主張も失当である。

(二)  原告の主張する被告市長のなした被告組合設立認可処分の無効原因について考える。

(1) 原告は右認可処分は不存在である旨主張するが、右主張の理由のないことは前判示認定説示のとおりである。

(2) 原告の主張する無効原因中、被告組合設立無効の原因と重なるものについては、いずれも理由がないことは前判示認定説示のとおりである。

(3) 原告は被告市長の設立認可処分はその前提手続において(ア) 法二〇条一項但書の規定に違反して事業計画を縦覧に供し、(イ) 同条三項の原告の意見書を違法に不採択とした瑕疵があると主張する。

(ア) 市長が被告組合の事業計画を法二〇条一項の規定により公衆の縦覧に供したことは原審証人笠井幸雄の証言により成立の認められる丙第六号証により明らかであるが、同証人の証言によれば、市長は認可申請書の内容を審査したうえで、右事業計画を公衆の縦覧に供したことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はないから、原告の右主張は理由がない。

(イ) 成立に争いのない甲第七号証によれば、被告市長が本件事業計画について原告がなした本件土地を施行地区から除外することを求める意見を棄却したことが明らかである。

しかしながら、本件土地を本件区画整理事業の施行地区から除外することは、本件事業にとつていわば画龍点晴を欠くに等しいことは前判示認定説示に照らして明白であるから、原告の意見を棄却したことについて所論の違法は認められない。

以上によれば、被告組合が不成立であることを前提とする本件仮換地指定処分無効確認の請求は理由がない。

2  原告は本件仮換地指定処分が法九八条一項前段の後半に定める仮換地指定処分すなわち所謂換地予定地的仮換地指定処分(以下後段の場合ないし後段の仮換地指定という。)であるにもかかわらず、換地計画が定められていないから無効であると主張し、被告組合はこの点に関し本件仮換地は前段の仮換地指定処分であつて、これに何ら違法な点は存しないし、仮に原告主張の考え方に立つても換地計画が作成され、その認可がなされたので、その瑕疵が治癒された旨主張する。

法九八条一項は仮換地の指定の要件として、施行者は換地処分を行なう前において、「土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」(前段の前半)又は、「換地計画に基き換地処分を行うため必要がある場合」(前段の後半)においては、施行地区内の宅地について仮換地を指定することができると定めている。

ところで、仮換地指定処分には、終局的な換地とされることを予定しない全くの一時利用地的仮換地指定処分と、終局的な換地とされることを一応予定する換地予定地的仮換地指定処分の二種類があると講学上いわれている。

本件の争点は、換地計画がなくとも、前段の場合であれば、後段の仮換地指定処分をすることが適法かどうかという点にある。

法九八条一項の文理解釈上は、後段の場合には仮換地指定が行なわれる前に換地計画が定められていることを要するけれども、前段の場合には工事のため必要があれば、換地予定地的仮換地指定処分であると、一時利用地的仮換地指定処分であるとを問わず、仮換地指定処分をすることができ、換地予定地的仮換地処分をする場合でも換地計画に基づくことを要しないと解される。

けだし、このように解しても、法九八条二項により、仮換地の指定は法に定める換地計画の決定の基準を考慮してなすことが要請されているのであるから、仮換地がそのまま終局的な換地に移行することはむしろ望ましいこととされているともいえるのであるし、最終的には換地処分は換地計画に基づかねばならないので、その段階では土地所有者らに縦覧、意見書提出の機会は保障されているし、本件のような組合施行の場合には換地設計案と仮換地指定案が組合総会、部会又は総代会にかけられるのであるから(法九八条三項)、組合員に対して実質的に縦覧と意見書提出の機会を与えたことになるから、実質的な不利益はないことになるし、土地区画整理事業の目的に鑑みても、実務上極めて煩雑な手続を要する換地計画をこの段階で要求することが、土地所有者の利益になるとは限らないと考えられるからである。

かく解することは、現実に後段の場合が殆どないことになるが、後記のとおり仮換地指定処分段階では清算金を算定しにくいという事情がある以上やむを得ないものというべきである。

そこで本件仮換地指定処分につき、工事のため必要があるかどうかを検討する。

前掲乙第二五号証の一、二、成立に争いのない甲第一号証、第四号証(乙第八号証)、甲第三五号証(乙第一〇号証)、当審証人東崎喬の証言により原本の存在及び成立の認められる乙第二二号証、当審証人東崎喬、同岩井浩の各証言に弁論の全趣旨を総合すると、本件事業の施行区域は、地下鉄我孫子駅から東南五〇〇メートルに位置する約六ヘクタールの地域で、区域内に巾員六ないし五メートルの街路を設け、この街路の路面下に上下水道を敷設し、公園を配して市街地を造成しようとするもので、原告所有地は、道路設置工事の対象となつたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。してみると、本件土地については道路新設工事のため土地の使用収益権能を他に移す必要があつたと認められるから、本件仮換地指定処分は、法九八条一項前段の前半の要件に合致するものというべきである。

次に、原告は、本件事業のような小規模な区画整理事業では換地計画に基づき仮換地指定処分をなすべきである旨主張する。なるほど、本件事業は施行区域約六ヘクタール、組合員三八名(当初)という小規模なものであるが、当審証人東崎喬、同岩井浩の各証言によれば、本件事業の主要な事務手続は、被告組合の委嘱により大阪市土地整備協会(大阪市土地区画整理協会)が担当し、同協会の実務においては後段の仮換地指定処分をなしたことは全くなく、同協会としては前段の場合の手続についての経験が豊かであつたこと、換地計画を作成するには諸般の手続を要するが、就中各筆清算金明細は、清算金算定時期が工事概成期とされていることから、本件事業区域の如く土地値上りの激しい所では、工期が長引く(本件においても当初工期は昭和四九年九月一日から同五三年三月三一日までであつたが、二度延長して昭和五七年三月三一日までとなつている。)ことと、法が清算金を確定額で表示することを定めていることとが相俟つて、実務上はその算定が非常に困難であることが認められ、かくては、本件程度の事業規模においても予め換地計画を定めることは、実際上不能を強いる結果となるから、原告の右主張は採用に由がない。

仮に原告主張のように換地計画に基づかない換地予定地的仮換地指定処分は無効であると解すべきであるとしても、右処分が換地に基づくことを要請する根拠は、換地計画の作成に際しては利害関係人に対し実質的にこれに関与する機会を与え、その権利を保護しようとするにあると解されるから、換地予定地的仮換地指定処分がなされた後に右仮換地を換地として予定する旨の換地計画が作成されたときはその瑕疵が治癒されるものと解すべきであるところ、当審証人岩井浩の証言により成立の認められる乙第五七号証、真正な公文書と認める乙第六一号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第五八、第六二号証に弁論の全趣旨を総合すると、被告組合は本件仮換地を本換地として予定する旨の換地計画を作成し、昭和五七年一月二一日付をもつて大阪市長がこれを認可したことが認められ、右認定に反する証拠はないから、原告主張の見解に立つても本件仮換地指定処分の瑕疵は治癒されたものというべきである。

3  仮換地の特定について

原告は、被告らは本件土地の測量を全くしていないから、本件仮換地指定処分にかかる仮換地は不特定である旨主張する。

前掲甲第一号証及び原審証人岩井浩の証言によれば、原告所有地は、既に地積訂正してあつた土地であり、本件仮換地指定通知には仮換地指定調書と仮換地指定図(縮尺三〇〇分の一)が添付され、これによりブロツク(街区)番号及び符号、地積、位置を明確に知ることができるものと認められ、右認定を覆すに足る評拠はない。

右事実によれば本件仮換地指定処分の表示方法に原告主張の違法はないことが明らかであるから、原告の右主張は理由がない。

六  なお原告は予備的に本件仮換地指定処分の取消しを求めているが、この点についても前叙判示により理由のないことが明らかである。

七  以上によれば、原告の本訴請求のうち、被告組合の設立無効確認の訴え及び、被告市長のなした被告組合設立認可処分無効確認の訴え並びに当審における右認可処分不存在確認の訴えはいずれも不適法としてこれを却下すべく、本件仮換地指定処分無効確認の請求及び同処分取消しの請求はいずれも理由がないから失当として棄却すべきものである。

従つて、原告が当審において被告大阪市長に対し追加的に併合した被告組合設立認可処分不存在確認の訴えを却下し、原告の本件各控訴は理由がないからこれを棄却し、被告組合の本件控訴は理由があるから原判決中同被告敗訴部分を取消し、同被告に対する原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 朝田孝 井上清 渡邊雅文)

別紙図面〈省略〉

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